目次9 項目
- 1バイブコーディングとは
- 2バイブコーディングで進めたコーポレートサイトのリニューアル
- 3AIを悪用したサイバー攻撃の最新動向(2026年)
- 3.1攻撃の速度と規模が、AIで一変した
- 3.2被害は、すでに数字に表れている
- 3.3AIを「使う側」も、狙われている
- 4バイブコーディングで高まる6つのセキュリティリスク
- 5バイブコーディングで実践した10のセキュリティ対策
- 5.1実データをAIに渡さない
- 5.2秘密情報をコードに書かない
- 5.3戻せない操作は人が承認する
- 5.4ライブラリの出どころを確かめる
- 5.5AIのコードをそのまま信じない
- 5.6入力の受け口を最小限にする
- 5.7外部サービスに頼りすぎない
- 5.8利用者の入力をAIに送らない
- 5.9攻撃の手がかりを出さない
- 5.10変更の履歴を追えるようにする
- 6安全に開発するための、AIへの指示の出し方
- 6.1前提はエンジニアが決める
- 6.2品質の基準は、数字で渡す
- 6.3見たままを、範囲と一緒に伝える
- 6.4決まりはファイルに書いて、毎回読ませる
- 7よくある質問
- 7.1バイブコーディングで作ったシステムは安全?
- 7.2社内データをAIに入力してもよいですか?
- 7.3AIが提案したライブラリは使ってよいですか?
- 8まとめ
- 9参考資料
当社は、コーポレートサイトのリニューアルを、AIと対話しながら開発する「バイブコーディング」で行いました。開発は大きく速くなりました。一方で、AIを悪用したサイバー攻撃は、この1年で目に見えて増えています。2026年10月に公開されたMicrosoftの報告書は、侵入後のデータの持ち出しや認証情報の探索といった攻撃の工程が、AIによって「数日から数分」に短縮されたと指摘しました。この記事では、会社の顔であるコーポレートサイトをAIと一緒につくり直すにあたり、私たちが何を守ったのか、実際に運用している10のセキュリティ対策を紹介します。
この記事でわかること
- コーポレートサイトのリニューアルを、バイブコーディングで進めた方法
- AIを悪用したサイバー攻撃の最新動向(2025〜2026年の調査から)
- バイブコーディングで高まるセキュリティリスク
- AIに任せる開発で実践している10のセキュリティ対策
- 安全に開発するための、AIへの指示の出し方
バイブコーディングとは
バイブコーディングとは、AIのコーディングエージェントに自然な言葉で指示を出し、コードの作成から修正までを対話しながら進める開発のしかたです。画面の試作から修正までが会話の速さで進むため、開発の速度は大きく上がります。
ただし、開発が速くなっても、守りは自動では付いてきません。AIは頼まれたものを書くことには長けていても、何を守るべきかまでは判断してくれません。AIの手が速いぶん、誤りも速く広がります。守りは、人が先に設計しておく必要があります。
バイブコーディングで進めたコーポレートサイトのリニューアル
今回のリニューアルでは、次の3つを目標にしました。
- スマートフォンでも速く表示され、読みやすいこと
- 社内の担当者が、お知らせやブログの記事を自分で更新できること
- 事業内容や自社サービスが、初めて訪れた方にも伝わること
進め方は、「人が決め、AIが実装し、人が確かめる」の繰り返しです。目的、使う技術、守るべきルール、品質の基準はエンジニアが決め、ページの組み立てやアニメーション、フォーム、テストまでの実装は、ほぼすべてAIのコーディングエージェントが書きました。できあがったものは、人が実際の画面で確かめ、気になった点を具体的に伝えて直してもらいます。
コーポレートサイトは、会社の顔です。お問い合わせのフォームでは、お客様の名前や連絡先もお預かりします。だからこそ、開発の速さと同じくらい、守りの設計に時間をかけました。
AIを悪用したサイバー攻撃の最新動向(2026年)
攻撃の速度と規模が、AIで一変した
Microsoftが2026年10月1日付で公開した「Digital Defense Report 2026」は、攻撃者がAIを使うことで、侵入後のデータの持ち出し、認証情報の探索、ほかの端末への侵入の拡大といった工程を、数日から数分に短縮していると報告しています。
CrowdStrikeの「2026 Global Threat Report」(2026年2月公開)によると、AIを活用する攻撃者の活動は前年から89%増えました。金銭目的のサイバー犯罪では、侵入から別の端末へ移るまでの時間は平均29分、最も速いものでは27秒でした。生成AIのツールに悪意のある指示を送り込む攻撃も、90を超える組織で確認されています。
被害は、すでに数字に表れている
IBMの「Cost of a Data Breach Report 2026」によると、悪意のある攻撃によるデータ侵害のうち、AIを使ったものは4件に1件にのぼり、その割合は前年から56%増えました。データ侵害1件あたりの被害額の世界平均は499万ドルと、過去最高になりました。
国内でも、情報漏洩は珍しいニュースではなくなっています。東京商工リサーチの調査によると、2025年に上場企業とその子会社が公表した個人情報の漏えい・紛失事故は180件、漏えいした個人情報は3,063万人分で、前年から93.1%増えました。原因の64.4%は、ウイルス感染・不正アクセスです。
AIを「使う側」も、狙われている
情報処理推進機構(IPA)が2026年1月に公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、組織向けの脅威として「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて選ばれ、3位に入りました。
AIのコーディングエージェントそのものが、攻撃に使われた例もあります。Anthropicは2025年11月、同社のコーディングエージェントが悪用され、世界の約30の組織が狙われ、一部では侵入が成功したサイバー諜報活動を、検知して阻止したと公表しました。報告によると、攻撃者は活動の80〜90%をAIに実行させていました。
AIが書くコードも、安全とは限りません。セキュリティ企業のVeracodeが、脆弱性が生じうる80のコーディング課題を、100を超える大規模言語モデルに解かせた調査では、45%のケースでセキュリティ上の欠陥が含まれていました。
攻撃する側がAIで速く、大規模になっているいま、AIを使って開発する側は、それ以上に慎重である必要があります。
バイブコーディングで高まる6つのセキュリティリスク
私たちは開発を始める前に、AIに任せることで新たに生まれる、あるいは大きくなるリスクを洗い出しました。
| リスク | 起こりうること | 対応する対策 |
|---|---|---|
| 実データの流出 | 顧客や社員の情報が、AIへの指示に含まれてしまう | 6.1 |
| 秘密情報の混入 | 接続情報や鍵が、AIの書いたコードに埋め込まれる | 6.2 |
| 誤った操作 | AIが本番への公開や削除を、判断を誤って実行する | 6.3 |
| 依存関係の汚染 | AIが、存在しない・悪意のあるライブラリを提案する | 6.4・6.7 |
| 生成コードの欠陥 | 一見動くが、安全でないコードが紛れ込む | 6.5 |
| 入力の悪用と情報の露出 | 利用者の入力が攻撃に使われる、構成が攻撃の手がかりになる | 6.6・6.8〜6.10 |
バイブコーディングで実践した10のセキュリティ対策
ルールの前提は、「AIは間違える」ことです。間違えても、取り返しのつかない事態にならない仕組みを、先につくっておきます。
実データをAIに渡さない
AIへの指示や、AIに読ませる資料に、顧客や社員の実データを含めません。サイトに掲載している自社サービスの画面も、架空の会社名・人名・数値を用意したデモ環境で撮影しました。AIが読む場所に、守るべき情報を置かないことが、最も確実な漏洩対策です。
秘密情報をコードに書かない
接続情報や問い合わせの送り先などの秘密情報は、コードには一切書かず、専用の保管場所で管理しています。AIは、動かすために必要だと判断すると、秘密の値をそのままコードに書くことがあります。ルールで禁止したうえで、変更のたびに差分を確認しています。
戻せない操作は人が承認する
本番環境への公開は、担当者が手動で、複数の確認を経なければ実行できない仕組みにしています。AIが誤って実行しようとしても、そこで止まります。
開発中には、AIツール自身の安全装置が、AIの操作を止めた場面が2回ありました。別のプロジェクトの素材を持ち込もうとしたときと、変更履歴に残っていないフォルダを削除しようとしたときです。どちらも、人が中身を確かめ、問題がないと判断してから進めました。
ライブラリの出どころを確かめる
AIは、存在しないライブラリの名前を、もっともらしく提案することがあります。攻撃者がその名前で悪意のあるライブラリを公開しておく手口は「スロップスクワッティング」と呼ばれています。
当社では、ライブラリを1つ追加するときも、提供元、ライセンス、公開されているソースコードを確かめてから入れています。使っているライブラリは、既知の脆弱性がないことを確認したうえで、最新の安定版に保っています。ただし、新しい版が出ても、周辺の道具が対応していないものは、あえて上げませんでした。「上げられるか」ではなく「上げて壊れないか」を判断するのは、エンジニアの仕事です。
AIのコードをそのまま信じない
AIの「できました」は、そのまま受け取りません。変更を反映する前に、静的解析、型の検査、ブラウザを使った約100件の自動テストをすべて通すことを必須にしています。そのうえで、人が差分を読み、見た目に関わる変更は、パソコン・スマートフォン・ダークモードで実際の画面を撮影して確かめています。
入力の受け口を最小限にする
お問い合わせなど、利用者の入力を受け取る部分は必要最小限にとどめ、守りを何重にも重ねています。入力内容は受け取る側でも必ず検証し、大量の送信や機械的な送信は受け付けません。入力された文字は、表示するときもプログラムとして解釈させません。
外部サービスに頼りすぎない
外部のサービスを1つ使うたびに、費用だけでなく、守るべき範囲と、データが流れる先が増えます。記事の管理なども外部のサービスに頼らず、必要なものだけを使う構成にしました。どのデータがどこへ流れるかを、すべて説明できる状態を保っています。
利用者の入力をAIに送らない
開発の途中で、AIのAPIを使ってお問い合わせに答える機能を実装しました。しかし、指示を巧妙に書き換えて想定外の動きをさせる攻撃(プロンプトインジェクション)や、事実と違う回答をしてしまう可能性、利用者の入力を外部のサービスに送ることになる点を検討し、最終的にこの機能は外しました。便利な機能でも、守りきれないなら載せない。この判断は、AIではなく人が下しています。
攻撃の手がかりを出さない
このサイトに使っている技術の名前や構成、セキュリティの設定は、記事にもページのソースにも書いていません。使っている技術が分かると、その技術の既知の弱点から、攻撃の当たりを付けられてしまうためです。この記事でも、具体的な名前や設定は伏せています。
変更の履歴を追えるようにする
公開前の内容は、パスワードで保護した確認用の環境でだけ確認し、検索エンジンにも載らないようにしています。また、すべての変更には署名を付け、いつ、誰の操作で加えられたかを、後から追えるようにしています。
安全に開発するための、AIへの指示の出し方
セキュリティと同じくらい成果を左右したのが、AIへの指示の出し方です。
前提はエンジニアが決める
配信する環境の制約、費用、記事を更新する人を先に書き出し、そこから構成を決めました。使う技術は、名前とバージョンまで指定します。指定しないと、AIは古い書き方や、プロジェクトに入っていないライブラリを持ち込むからです。
品質の基準は、数字で渡す
「見やすく」「速く」では、AIは判断できません。文字と背景のコントラスト比は4.5:1以上、押せる要素は44px以上、本文は16pxといった基準を、数字で渡しました。表示速度は計測しながら改善し、スマートフォンでの計測値は、100点中67点から98点まで上がりました。
見たままを、範囲と一緒に伝える
| 伝わりにくい頼み方 | 一度で直る頼み方 |
|---|---|
| いい感じにして | 表示テーマの下に余白がなく、窮屈に見える |
| スマホで変 | スマホで、トップの図形がリンクに重なっている |
| もっとリッチに | 吹き出しが急に出るのではなく、フェードで出るようにして |
あわせて、「この部品だけを直す」「ほかのファイルは変えない」「削除する前に中身を見せる」のように、やらないことも伝えます。差分が小さくなり、確認しやすくなります。
決まりはファイルに書いて、毎回読ませる
コードの書き方、守るべきルール、過去につまずいた不具合とその対処は、AIが作業の最初に必ず読むファイルにまとめています。ルールが育つほど、AIの作業は安定し、次に作業する人とAIが同じところでつまずかなくなります。
よくある質問
バイブコーディングで作ったシステムは安全?
AIが書いたというだけで、安全にも危険にもなりません。重要なのは、AIが書いたコードを検査とレビューで確かめる仕組みと、AIに渡す情報や任せる操作を制限するルールがあるかどうかです。
社内データをAIに入力してもよいですか?
顧客や社員の個人情報、取引先の情報などの実データは、入力しないことをおすすめします。検証には、架空のデータを用意して使うのが安全です。
AIが提案したライブラリは使ってよいですか?
そのまま使うのは避けてください。存在しないライブラリの名前を悪用する攻撃もあります。提供元、ライセンス、公開されているソースコードを確かめてから使ってください。
まとめ
- AIを悪用したサイバー攻撃は、速度も規模も大きく変わった。AIに任せる開発ほど、守りを先に設計する必要がある
- 実データと秘密情報はAIの手の届く場所に置かず、戻せない操作は人の承認を必須にする
- AIが提案するライブラリやコードは、そのまま信じず、確かめてから使う
- 守りきれない機能は載せず、攻撃の手がかりは出さない。この判断は人が下す
バイブコーディングは、エンジニアの仕事を減らすものではありません。エンジニアの仕事を「書くこと」から、「決めること」と「確かめること」へ移すものです。AIを活用した開発や、セキュリティを重視したシステム開発のご相談は、お問い合わせからお気軽にどうぞ。
参考資料
- Microsoft「Microsoft Digital Defense Report 2026」(2026年10月1日)、報道:Infosecurity Magazine(2026年10月2日)
- CrowdStrike「2026 CrowdStrike Global Threat Report」(2026年2月24日)
- IBM「Cost of a Data Breach Report 2026」(2026年7月29日)、発表:IBM Newsroom(2026年7月29日)
- 東京商工リサーチ「上場企業の『個人情報漏えい・紛失』事故 2番目の180件発生、漏えい人数は約2倍増の3,063万人分」(2026年1月30日)、報道:Web担当者Forum(2026年2月6日)
- 情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2026」(2026年1月29日)
- Anthropic「Disrupting the first reported AI-orchestrated cyber espionage campaign」(2025年11月13日)
- Veracode「AI-Generated Code Poses Major Security Risks in Nearly Half of All Development Tasks」(2025年7月30日)
